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研究内容 (Research)

熊本大学・先端科学研究部の研究紹介

 パルスパワーは瞬間的なエネルギーであり、電気エネルギー、化学エネルギー、機械エネルギー、光エネルギー等を時間的に圧縮することにより、定常状態では得られない大きな電力や圧力、重力、光強度が得られます。このようなパルスパワーは、基礎科学のみならず、材料加工、新規物質創出等の応用研究にも用いられています。特に光パルスは、究極的な時空間圧縮が可能なことから、テーブルトップでペタワット (1015 W)のパルスパワーを創出することができます。
 我々のグループでは、
フェムト秒 (10-15 s)パルスを用いて物質の性質を調べています。このような時間スケールは、物質を構成する原子の振動(分子振動、格子振動)の周期時間に匹敵しています。そのため、フェムト秒光パルスを用いることで、光と物質が相互作用する際の極限的な時間スケールで起こる非平衡状態を観測することができます。特にパルス幅が10フェムト秒よりも短い可視〜近赤外波長域の光パルスは、光の波長を決める光電場のキャリア(搬送波)振動が、光パルス包絡線中に数周期分しか含まれません。このような極超短光パルスでは、搬送波位相の効果が顕著に表れます。例えば、極端紫外領域におけるアト秒 (10-18 s)光パルス発生法では、このような搬送波位相効果がいち早く取り入れられ、その制御法が確立されてきました (R. Kienberg et al., Nature, 2004)。

極超短光パルス発生

 中空糸ファイバー中の微小空間に希ガスを充填させ、その中を高強度光パルスが伝搬と、非線形光学効果により入力光パルスに対してスペクトル広がりを持った光パルスが得られます。この出力パルスを最適に計算されたチャープミラー群を用いることで群速度分散を補償し、極超短光パルスを得ることができます。我々の研究グループでは、フーリエ変換限界パルス幅4.8fsに対して、5.0fsの光パルスを発生させることに成功しています。
 このような5.0 fs光パルスを用いて、キャリア位相の安定化・制御を行うための手法を確立してゆきます。また、非同軸光パラメトリック増幅器を使用し、近紫外域から近赤外領域におけるsub-10 fs光パルス発生技術を確立し、物性解明に適用してゆきます。

超高速分光法

 物質に光を照射すると、入射する光のエネルギー(波長)と物質の固有エネルギーの関係に応じて、物質は様々な応答を示します。例えば、入射する光のエネルギーと物質の固有エネルギーが同じ(共鳴条件)であれば、光によって物質の励起状態が生成されます。生成された物質の励起状態は不安定であるため、有限時間で元に基底状態へ緩和します。この緩和時間は物質によってさまざまであり、周辺環境 (熱浴)との相互作用が強い凝縮系(固相・液相)における電子状態であれば、10-6~10-15 s (μs~fs)程度となります。こういった非常に速い時間スケールで起こる現象を捉えるには、光パルスを用いた計測が最も有効な手法となります。そのため、我々は様々な最先端技術を駆使し、物性解明のための分光手法の開発を行っています。

量子光学とナノバイオフォトニクス

 光は古典的な波動性と量子的な粒子性の2つの性質を持ちます。微弱な光であれば量子性が強く表れ、光の波動的な性質とは異なった特徴的な現象が現れます。このような性質を利用し、微弱な光の粒子(光子)を数える手法(フォトンカウンティング)が確立されてきました。このような手法を用いると、究極的な高感度光検出を行うことができます。また、このフォトンカウンティングと光パルスを組み合わせることで、光の到達時間をピコ秒の精度で決定できる時間相関シングルフォトンカウンティング (TCSPC)法が確立されています。この技術を用いると物質の蛍光・燐光寿命、液体中の気泡が超音波により圧壊した際に生じるソノルミネッセンスの時間応答、蛍光バンチング・アンチバンチング、光の量子相関等が高い検出感度、高い時間分解能で計測することができます。
 我々の研究室では、このTCSPCを用いてピコ秒からミリ秒の時間スケールにおける物質の励起状態ダイナミクスの解明を行っています。特に、生体分子におけるTCSPCを用いた単一分子分光の実現を試みています。

超高速分光法による物性解明

光合成過程

 植物・細菌・藻類等では、光を利用した物質変換を行っています。例えば、緑色植物では光エネルギーを原動力として、水から酸素を生成し、二酸化炭素から糖を生成しています。酸素や糖は、我々人類が生命活動をするうえで必要不可欠な物質であり、このような物質変換を光というクリーンエネルギーを用いて行うことができる光合成機能を解明することは、急務な課題といえます。
 一方、このような光合成の機構は非常に複雑となっています。まず、光合成初期過程では、光捕集アンテナと呼ばれる器官によって光が吸収されます。吸収された光は、励起エネルギーとして反応中心と呼ばれる器官に伝達され、そこで電荷分離状態が生成され、水を分解するための電気化学エネルギーを得ています。ここに至るまでの過程で、エネルギー移動、電子移動、電荷分離といった素過程が、光合成器官に結合する色素分子間で行われます。また、このような光合成色素分子間で行われる素過程は、フェムト秒〜ミリ秒という非常に速いスケールから遅い時間まで幅広くおこわ慣れています。我々は、上記したような時間分解分光手法を駆使し、光合成初期過程の全解明を目指しています。

光合成アンテナ

 光合成初期過程の中でも我々が特に興味を持っているのが、光合成アンテナ系における光の吸収及びそのエネルギー輸送現象です。上記してきたように、光合成初期過程は、大きく2つに分けると"アンテナ系におけるエネルギー伝達"と"反応中心における電子伝達"になります。光合成生物が地球上に誕生したのは、およそ30億年前といわれていますが(シアノバクテリア)、反応中心における電子伝達機能は、その時点ですでに完成形を得ています。一方、光を捕集するアンテナは、生物が進化の過程において海から陸上に上がってくる過程で大きく変貌を遂げています。例えば、水中に棲息する生物は、棲息環境における太陽の輻射強度が十分ではないため、効率的に光を吸収しエネルギー伝達を行っています。一方、地表に棲息する植物等は、太陽の輻射強度が十分に強いため、過剰な光から生体を保護する機能を発展させています。
 上図に、X線結晶構造解析によって原子レベルの構造が調べられている代表的な光合成アンテナを示した。これらのアンテナ系には、光合成色素である
カロテノイド(バクテリオ)クロロフィルが含まれています。光合成アンテナは、進化の過程において光合成色素分子の空間配列を制御することによって、棲息環境に応じた多様性を発現させています。

光合成色素

 光合成器官の光機能において中心的な役割を果たしているのが、光合成色素です。光合成色素は多くの種類がありますが、代表的なものとしてカロテノイド、(バクテリオ)クロロフィルが挙げられます。クロロフィルは植物における葉緑素とも呼ばれ、中心金属(Mg)を持つ環状分子です。(バクテリオ)クロロフィルは、近紫外及び近赤外域に吸収帯を持つため、太陽の輻射強度が高い可視域の光を有効利用することができません。そのため、光合成アンテナでは可視域に強い吸収帯を持つカロテノイドが代わりに光を吸収し、そのエネルギーを(バクテリオ)クロロフィルに伝達しています。カロテノイドは、炭素原子が1重結合と2重結合を交互に繰り返す一次元ポリエン骨格を持ちます。このようなポリエン分子では、骨格中に非局在化したπ電子が分子の光学特性を支配します。天然由来カロテノイドは、このような光学特性から400~600 nmに強い吸収帯を持ち、高い非線形光学特性、超高速応答を示すことで知られています。

有機π電子系光機能性材料

 近年、材料コストおよびフレキシビリティの面から、有機光機能デバイスが着目されています。このような光機能物質の動作機構において、励起状態の緩和過程は重要因子となっています。低次元π電子系では非局在化したπ電子により、その励起状態緩和はフェムト秒〜ピコ秒といった超高速時間領域で起こります。
 これまでの研究として、首都大学東京 柳先生らとの共同研究において、カーボンナノ材料である
カーボンナノチューブに光合成色素 (β-カロテン)を内包することで疑似的な人工光合成アンテナを構築し、その光機能解明を行ってきました。また、大阪市立大学 手木先生らとの共同研究において、ラジカル基を導入したペンタセン類縁体では、光損傷が飛躍的に低くなることを見出しました。ペンタセン分子は、高いホール移動度を持つことから、電界トランジスタ等への応用が期待されており、本研究成果は実用化に向けた革新的な技術要素の構築となりました。

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